受難?







 春も深まり、そろそろ暑い季節が近づいてこようとしている頃。
 それでも未だ風は暖かく、窓から入るそれが身体を優しく撫でる。
 その感触は子供が母親に頭を撫でられている時と同じくらい心を癒してくれる。


「暖かいな〜」


「ええ、よい天気です」


「こういう日はゆっくりしていたいわね」


 聖杯戦争が終わって既に数ヶ月。
 俺は新しく加わった新たな家族と共に平和そのものの暮らしを再開していた。
 まあ、たまに『あかいあくま』による理不尽な苛めとかもあるのだが……
 それも不器用な愛情表現だと分かれば可愛いと思えるから不思議だ。
 ついでにいうとエンゲル指数は一気に上昇した……けどまあ仕方ない。
 とにかく、今俺たちは幸せの真っ只中にいると言えるだろう。


「同感です、リン」


「でも布団干さないとなぁ〜……」


 ポカポカの陽気の中で、まったりとした俺たち3人。
 休日の午後、特にやることもなく暇な一日がゆっくりと過ぎていた……はずだった。


「…………で、ライダーはなんでここにいるんだ?」


「先ほど玄関から入ってまいりましたが?」


 何時までも現実逃避していても仕方ないので、とりあえず疑問をぶつけた。
 もちろんぶつける相手はさっきからずっと座布団に座っているライダー。
 確かに先の聖杯戦争で滅びたはず……
 しかも聖杯無き今、ここに存在することすら不可能のはずなのだが。


「だからっ!!何で貴方がまだ存在しているのかを聞いているの!!」


 どうやら遠坂も俺と同意見らしく、怖いくらいの剣幕でライダーに寄る。
 魔術師だから分からないことがあるのがムカツクのだろう。
 まあ、あいつの場合は単純に性格からくる怒りだろうが、口には出せない。
 わざわざ墓穴を掘って、さらに墓石まで立てる必要は無いからだ。
 早く言えば、『まだ死にたくない……』といったところか。


「……すみませんがそれにはお答えできません」


 あの剣幕を目の前にしても平然と答えるライダー。
 俺だったらあの場から逃げているだろうな……流石は元・サーヴァントといったところか。
 しかし、本当に不思議だ……セイバーみたいに使い魔という訳でもなさそうだし。


「どういうことですか、ライダー?」


 ライダーに敵意が無いことを感じたのか、セイバーはライダーの隣に腰を降ろした。
 そして今にもライダーに襲い掛かりそうな遠坂の代わりにライダーに詰問をする。
 聞かれたライダーは、何故か申し訳なさそうな表情をしている。


「分からないのです。何故自分がここにいるか……」


「……はあっ!!?」


 ライダーが小さな声で言った言葉に、大きな声と共に『?』を浮かべまくる遠坂。
 俺とセイバーも同じく疑問系状態なのだが、遠坂の大声の所為で驚きの方がデカイ。
 隣にいた俺なんて心臓が止まるかと思ったくらいの大きな声だったのだ。
 しかもよく通る声だから余計鼓膜にキた。


「遠坂、ちょっと声が……」


「う、うるさいわね!わかっているわよ」


 自分でも気付いていたのか、遠坂は顔を真っ赤にしながら座布団に腰をおろす。
 多少呼吸が荒いことから、大分興奮していることが分かる。
 だがとりあえずライダーの話を聞かなければいけないので、遠坂には黙っていてもらおう。
 

「気が付いたらシンジの部屋にいました」


「慎二の部屋……今は慎二が入院中だから無人だろ?」


「ええ、病院にも行きましたが……シンジが……」


 そういえばライダーはあの狂ったような慎二しか知らないんだよな。
 じゃあ今の慎二を見たときはかなり自分の目を疑ったに違いない。
 なにせ俺ですらも誰か別の人格でも入ったのかと思ったくらいだ。


「私にも何がなんだか……とりあえず知っている人といえばシロウくらいで……」


 よほど混乱しているのだろう、何時もの口調が微妙に崩れている。
 それでも熱心に事情を語ろうとするライダーが少し可愛くみえた。
 なんだか聖杯戦争の時とちょっと印象が違うな……見ていて飽きない。


「……で、貴方はどうしたいの?」


 話をまとめるかのように少し熱の収まった遠坂が言う。
 セイバーはライダーの隣で黙って座っている。
 どうやら自分に発言権はほとんど無いと本能的に分かっているらしい。
 なにせあの遠坂だ……全ての発言を無視してでも話を進めるだろう。
 まあ、遠坂に任せておけば間違いないというのもあるのだが……
 

「……この家に住ませてほしいのですが」


「……はぁ、やっぱりそうなるのね」


 その返答に予想がついていたかのように、諦めたような表情をする遠坂。
 まあ、俺もだいたいそうなるな〜とか思っていたけど。
 さて、遠坂はどう返事するだろうか……


「で、士郎どうするの?」


「……あ、え?俺?」


「当たり前じゃない、この家は士郎の家なんだから」


 まったく、と言うような感じで俺を見てくる。
 そういえば最近忘れがちだが、ここは俺の家だった。
 最近遠坂といる所為でまるで遠坂家のような気さえしてきてしまう。


「そうだな……やっぱり放っておくわけにもいかないし」


 このままライダーに路頭に迷われても困る。
 強いといってもやっぱり女の子(?)だし、夜とかは何があるか分からない。
 最近は本当に物騒だからな。


「可能な限り、家事等の手伝いはしますので……どうか」


「あ、ああ……わかった。住んでもらってもいいよ」

 
 まあ、悩むまでも無い問題ではあったが……
 遠坂なんて『やっぱりね』とか言いたげな感じだ。
 やかましい、困っているやつを見捨てるなんて出来るか。


「本当ですか!?」


「っ!?!」


 よほど嬉しいのか、間の机を飛び越えて俺に抱きついてくるライダー。
 むむむむ胸が、胸があたってますって!!
 遠坂より大きくて、セイバーとは比べ物にならないくらいの胸が〜!?
 うあ〜〜〜柔らけ〜〜〜……


「すいません……このご恩は忘れません」


「あ、ああ……」


 わかったから、その場所で喋らないで下さい。
 耳のところに息が……ちょっと暖かい吐息がかかるんです。
 あ、ライダーの髪の毛凄くいい匂いがする……
 眼帯しているから、顔まではわからないが、凄く整った身体だ。
 さぞかし美人なのだろう、ちょっと眼帯とって欲しかったり……


「なんなら、今日の夜の相手でも……」


「え、えっと……」


 突然の言葉に先ほどから上昇しっぱなしの顔の温度が沸点まで一直線。
 あとは噴火を待つのみといった感じだ。
 俺の後ろに回されている腕とか、剥き出しの足とかが凄く綺麗だ。
 露出が高い服のため、直に体温が伝わってくる。
 何が一番ヤヴァイかって、俺が完全に押し倒されている状態なのがヤヴァイ。
 こう、大人の魅力にノックアウト寸前、みたいな。


「遠慮なさらずに、任せていただければ……」


 っていうかライダーってこんなやつだっただろうか?
 聖杯戦争の時はもっと厳格そうな感じだったのだが。
 実は物凄い普通の女の子だったりするのだろうか?
 今言っている言葉が少し卑猥っぽいが、そこは敢えて気にしないことにした。
 だってそうでもしないと……流されてしまいそうで…… 


「士郎、わたしの前でいい度胸ね?」


「そんなにライダーの胸がいいのですか?」


 そして俺を睨みつける2つ×2人=4つの目線。
 顔は笑顔なのだが、言葉はまったく違うのが本気で怖い。
 具体的に言うとバーサーカーより怖い。


「こ、これは……その」


 別に俺が悪いわけではないような気がしたが、何故か吐く言葉は言い訳っぽくなる。
 それは少しだけ罪の意識を感じているからなのか、それともあの2人が怖いからなのか。
 もちろん前者も少しはあるのだが、9割は後者だろう。
 怖いというか、恐ろしい……これからギルガメッシュと戦うほうがマシな気がする。
 固有結界が発動出来ない分、勝ち目なんか無いじゃないですか。


「シロウ、どうしたのですか?」


「ら、ライダー……まずは離れて欲しいのですが……?」


「……これは失礼しました」


 俺の言葉で遠坂たちの視線に気が付いたのか、俺の上から退くライダー。
 そのまま俺の横にしっかりと正座をする。
 ほんのりと紅く染まった頬が物凄い可愛い……
 ああ……なんかさっきまであの綺麗な肌と密着していたと思うと凄くいい気分だ。
 このまま布団は言って寝たらきっといい夢が見られることだろう。
 さあ、夢の世界へレッツゴーだ。


「シロウ、こんな胸なぞ脂肪の塊です。騙されてはいけません」


「そうよ。胸なんてあったら体重が増えるんだから」


 軽くIN MY DREAMしていた脳が、2人の声によって起こされる。
 俺からライダーの胸へと視線を移す遠坂&セイバー(貧乳同盟)
 そしてどう考えても負け惜しみとしか思えない言葉を吐き、ライダーを睨む。
 それに対してライダーは、


「そうですね、重たいだけですので困ります」


 などと、否定するどころか肯定までしてしまった。
 多分本人は本気そう思っているのだろう。
 だが貧乳同盟の2人にはただの嫌味にしか聞こえないはずだ。
 その証拠に、2人(特にセイバー)の睨みがヤクザ並に怖い。
 今にも『約束された勝利の剣』を発動してしまいそうな感じだ。


「あまり良い服も見つかりませんし……」


 ぎゅっと腕で胸を寄せ谷間を作るライダー。
 本人は『ほら、邪魔でしょう?』みたいな感じなのだろう。
 しかし、俺たちにとっては目の毒以外何者でもない。
 特に俺は鼻血を抑えるので精一杯だ。
 だって目の前でそんなことされたら……ねえ?


「くっ……」


「…………すいませんシロウ、私はまたシロウを守れなかった」


 言葉だけで悔しがっていることがわかる遠坂。
 そして現実逃避を始めようとしているセイバー。
 先ほどのライダーの行動はここにいる全員にヒットしたようだ。
 俺は危うく即死しかけているけどな……ある意味で腹上死より情けないが。


「そ、それでライダーはここに住ますことでいいか?」


 このままの状態じゃ話が終わらないので、とりあえず纏めに入る。
 その言葉に、遠坂とセイバーがこっちの世界に戻ってくる。


「……そうですね、シロウがいいなら私が断る理由は無い」


「同感ね。でも……1つ条件があるわ」


「なんでしょうか?」


 住むことに問題は無いらしいが、少し納得のいかない部分があるらしい。
 あ、部屋の問題かな……『自分と同じ部屋は……』みたいな感じだろうか?
 それならば部屋はまだ余っているからまったく問題は無い。


「一緒に住むからといって、容易く士郎に近づかないで」


「…………」←ライダー


「…………」←セイバー


「…………」←俺

 
 その場にいる全員が凍りつく。
 あ〜……なんだ……どっかで聞いたような台詞だな。
 まあ確かに俺は男で、ライダーは女だから世間体的にあまり近づいていない方がいいだろう。
 あ、でもセイバーはとかはいいのだろうか?
 う〜む……よくわからないな……何故か遠坂顔赤いし。


「なあ、それって「却下します」……え?」


 その辺りの疑問を遠坂に聞こうとしたのだが、途中ライダーの言葉に阻まれる。
 ライダーの方を見ると、凄く厳しそうな顔で遠坂を見ていた。
 『これ以上何を言っても無駄です』みたいな頑なな感じだ。


「……どういうことかしら?」


 意外な返答だったのか、こめかみをピクピクさせながら言う遠坂。
 ちなみに、俺は遠坂とライダーの間にいる。
 つまり戦闘開始寸前の雰囲気に包まれた状態の中心にいるわけだ。


「言葉どおりです。シロウに近づかないという条件は認められません」


「ライダー、それは何故ですか?」

 
 マジでキレちゃう五秒前な遠坂の変わりにセイバーが聞く。
 心なしかセイバーも軽くキレているような気がしないでもないが、遠坂より幾分かマシだ。
 ライダー、お願いだから……これ以上雰囲気をヤヴァくしないで欲しいです……


「答えるまでもないことですが、私がシロウのことを好きだからです」


「…………」←俺


「…………」←セイバー


「…………(ぷちっ)」←遠坂


 う、うわ〜い……ぼく嬉しいなぁ……(棒読み)
 本当に嬉しいのだが、この状況では素直に喜べない。
 いや、本気で嬉しいですよ?
 ライダーは美人だし、スタイル最高だし、もういう事無いって感じだからな。
 でも、今手を挙げて喜んだら間違いなくその手は無くなる気がする。
 だってほら、今どこかの誰かの血管が切れた音したし。


「ふ……ふふ……ふふふふふ……」


「と、遠坂さん?なにか……?」


 思わず敬語になるほどの気迫。
 こればっかりは修行不足とか言われても『違う』といえる自信がある。
 だって、マジで怖いですから……
 こんなんなら聖杯に1人で向かった方がマシだい……


「士郎、モテモテね……嫉妬しちゃいそうだわ……」


 ガシッ


「い、いえいえ、遠坂様ほどでは……」


 頭をつかまれて、そしてその手から魔術の力が感じられるのですが……
 あれですか、飛び道具とかじゃなくて、直にカマす気ですか?
 はっきり言ってそれはかなり辛いと思うのですけれど、そこのところどう思います?


「私のシロウに何をするのですか?」


 そう言いながら俺の頭を掴んでいる遠坂の手を掴むライダー。
 よほどの力があるのか、力を込められていた遠坂の手が俺から離れる。
 さすがは元・サーヴァント……ありがとう、助けてくれて。


「ライダー、やはり貴方は敵のようですね」


 って、なんでセイバーは剣を構えているのだろう。
 しかも刀身みえているし……風王結界を解いてますか?


「……ふん。待ってなさいよね士郎。今お仕置きしてあげるから」


 遠坂は遠坂でなんか小さい刀みたいのを構えているし。
 しかも何気に俺に向かって死刑宣告していたよな今。


「シロウは渡しません……」


 そして眼帯を取るライダー。
 あ、やっぱり物凄い美人だなぁ……でもなんだか……身体が重いんですが……
 うあ……もう完全に動けない。


「……俺、もう駄目かも」


 決戦前夜でもこれほどまでではなかった緊張感に包まれた空間。
 その中で、俺は1人死の覚悟を決めた。






 それから数日後……


 ピンポーン


「誰だこんな時間に?」


 呼び鈴が鳴ったので、玄関に出る。
 夕食の準備中だったので、エプロンを装着したままだがまあ良いだろう。
 お、どうやら遠坂たちも突然の来訪者を見に来たらしい。


「こんにちわ、坊や」


「……キャスター?」


 玄関に立っていたのは青い髪のお姉さま……というかなんか人妻っぽい人。
 記憶が確かならば、キャスターのはずだ。
 遠坂たちもそう思っているのか、半分固まっている。


「坊や、ここに住ませてくれないかしら?」


「「「「あんたもかいっ!!!」」」」←俺、遠坂、セイバー、ライダー


 異口同音に同じ言葉を吐く俺たち。
 っていうかお前の台詞じゃないぞライダー。


(この調子で増えたりしないだろうな……ランサーとか)


 あながち有り得ないとも言い切れないあたりが怖い。
 誰か俺の平穏な日々を返してくれ……









そのまま第3弾、東海林さんよりいただきました。
なんつうか、萌えた!すごく萌えました!
最近こんな感覚をよく味わいます。もう年かしら?

東海林さん、どうもありがとうございました。








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