偽り石、終の夢











 8年間。



 通過するには遠く、立ち去れば一瞬。
 過ぎた時は短いと言う話をよく聞くが実に共感できる話だ。


 だけど、例えその時間が一瞬であれ過ぎた時間は思い出と言う名の呪いになる。







 でも・・・





 もしこの呪いさえ一瞬のうちに消えてくれるのなら。



 そこにはちょっとだけ、救いがあるような気がした。










偽り石、終の夢




 やることは難しそうで、けれどやってみると何もかも簡単だった。



 四季様のやることを容認して狂わせてから人を襲うようにした。

 秋葉様に血をすわせることで遠野よりのものにした。


 普通に二人がぶつかれば感応能力の助けもあるし多分秋葉様が勝つだろう。
 だけど、それに気づいた四季様が私を狙えば相討ちになる可能性も十分にある。
 そういう風な結末を描けるような舞台を作ってきた。



 かかった時間は長かったけれど、ただそれだけだった。



 準備は整った。志貴さんの歓迎会の次の日、整えた舞台が無駄になる可能性も消えた。



 もし、あの8年前の男の子がちゃんと私のことを覚えていてくれてたらやめようと思っていた復讐。






 自分勝手なギャンブルが勝ちに終わったか、それとも負けに終わったのかは正直なところわからない。


 でも、もし私が志貴さんの立ち場に立たされても多分わからなかっただろう。


 だからこの賭けはそういうこと。ちょっとした気まぐれの産物だ。








 そう……気まぐれにやった賭けだから。この空虚さもきっと気まぐれに違いなかった。












 供給断線によって倒れられた志貴さんの看病に行く。
 四季様はすでに退場されていて私の計画にも狂いはでてきたけど秋葉様はあれから遠野よりのものになってきている。
 このままだといずれ分家筋の誰かが秋葉様を「処分」しにくるだろう。


 実際秋葉様は一番大切にしている志貴さんを殺しかねないほど人間から外れてきている。
 明日の夜まではこの調子だと言っていたけど、おそらくあの様子だと今晩中に志貴さんは亡くなられてしまう。




 志貴さんは秋葉さまを好きだという嘘をつかなかった。曰く、例えそうしなければ自分が死んでしまうと知っていても好きな人を偽ることはしたくない、だそうだ。




 秋葉さまが志貴さんを想う気持ちを無視してでも自分を偽らないという志貴さんに秋葉さまの想い、それがどれだけ重いものかを志貴さんに伝えた。
 長い間連れ添った少女の思慕がどれほどのものか、そのくらいは理解できているつもりだ。


 なのに、それでも秋葉さまが血を吸うことをやめさせるといって志貴さんは机へと歩みを向けた。


 そしてナイフを取り出した後、ナイフではない何かを取り出して私の方に歩いてくる。

 そのままおぼつかない足取りでゆっくりと私の前に来て、その手を開いてそれを私の手においた。












「━━━━━━━━」







 8年前。もう鮮明には思い出せない、何もなかった少女時代。
 そのころただひとつ私のものだった布切れがそこにあった。






「遅くなったけど、返すよ。ごめんな。せっかく借りたのに、結局、一度も使わなかった」
「━━━━気づいていたんですか、志貴さん」


 息が詰まる。こんなことがあるなんて、思っても見なかった。


「本当は帰ってきた時に、すぐ気づくべきだった。だから、今更そんな資格はないけれど、ありがとう。琥珀さんがこの家で待っていてくれて、うれしかった」













 ずっと抱えていた何かが、壊れた。















 志貴さんに抱きしめられたまま、涙はとまる気配を見せない。

「志貴さん、あなたは」

 全部知っていたんですね━━━━


 志貴さんの唇は全て言い終わることを許してくれなかった。

 口付けは一瞬だったけど、それで何も言えなくなった。


 その一瞬のあと、志貴さんは、

「それじゃ。短い間だったけど、琥珀さんと居れて楽しかった。
 ━━━━うん。俺、琥珀さんが一番好きだよ」


 泣きそうな笑顔でそう言って、私のもとから離れていく。

















 ひとつ、気まぐれで賭けをした。


 8年前の少年が私との約束を覚えていたら、こんなことやめよう。


 勝ち負けがわからないギャンブル。しかし約束が果たされた以上、復讐は中止しなければならない。
 四季様は亡くなってしまわれたけど。秋葉さまは生きている。


 ならば、助けなければならない。









「━━━━待って、ください」


 志貴さんには秋葉さまを止めていただかなくてはならない。
 その事を考えるのは、遠野家の人間を死なせるための計画を立てる時よりも強く強く私の心をうごかした。

















 長い時間溜め込まれた、思い出という名の呪いは一瞬で消えてくれて。












 そこには確かに、救いがあった━━━━










リク10弾。えらくひさしぶりです。
しかも「琥珀でシリアス」ときたもんだ。


根本に「シリアスは自己満足」という考えが根付いているので
こんなリクがくるなんて思いもよりませんでした。


ちなみに実はまだ未消化のリク(18禁)があるんですけども、書けるのは何時になることやら…

では、ご意見やご感想などありましたら、伝えてやってくださいな。







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