浅上事情









「蒼ちゃーん。朝だよー」

 ルームメイトを起こすのは普段は最後まで起きない不思議少女。

「……んん……」

 休みの日はゆっくりと寝るロック好きの少女が不愉快そうに目をこする。

「なんだ羽居……ってまだ6時じゃないか!」
「でも今日は学校だからそろそろ起きないと間に合わないよ?」
「……なんだと!?」

 羽居の言葉にベッドから身を起こす。驚いた羽居が「うわ〜」と緊迫感のない悲鳴をあげながらしりもちをついたが、残念ながらかまっているほど余裕は少女にはない。とりあえず制服に着替えて朝食を……と、そこまで思考をめぐらせてから自分を見る副生徒会長殿の視線に気がついた。
 普段は隙を見せない黒髪の少女が今日はまだパジャマである。

「どうしたんだ? おまえさんも準備しないと……」
「寝ぼけてるみたいだから言っておくけど、今日は日曜日よ」
「……は?」

 もうわけがわからない。説明をもとめようと羽居のほうを見やると、なぜかスーツ姿で胸を張っていた。



「……羽ピン学校だそうよ」


 全くわけがわかりませんでした。









浅上事情





「で、なんでわたしまで連れてこられるの?」
「……先生に聞いて頂戴」
「あの……わたし中等部なんですけど……?」
「気にするな。どうせ羽居の授業だ。学力なんていらないさ」

 部屋にそろったのは四人の生徒。部屋の住人に加えて犬っぽかったりイカっぽかったりする生徒が増えている。


「ところで遠野」
「……なに?」
「おまえさんがこんなことさせるってのはめずらしいが、なんかあったのか?」
「……あなた、ああなった羽居を止められる?」
「……わたしが悪かった」

「そこ、静かにするのだ。今から授業をはじめますよー」


「あの、先生……」

「はい、晶さん。なんですか?」
「あの……そのぬいぐるみはなんなんですか?」


「これは今日の先生の相棒の猫ワルクちゃんです。はい、皆さんはくしゅ〜」

「わぁ〜……」

「むう、なんだか微妙にやる気ない感じだけど……授業をはじめます。まず最初の授業は……」

 ゴクリ……

「手品で〜す」


「……え?」
「は?」
「?」
「手品……ですか?」


「あー、どうせちゃちなやつだとか思ってるでしょー!?」

「いや、それ以前に……授業で手品?」


「今日やるのはなんとー……」
「無視ですね」



「人体切断でーす!」
「「「「待てー!」」」」

「あはは、大丈夫。最初に大根で試すから」
「そういう問題じゃないでしょ!あなたが手品をやる側ということは、私たちの中から被害者がでるってことじゃない!」

「大丈夫だよー。結構成功率高いから」
「失敗もあるってことじゃない……」
「ち、ちなみに成功率って失敗する確率はどれくらいなんですか?」
「う〜ん……3回に一回くらい?」
「たかっ!」
「まあ、なんとかなるよ」


 そういうと用意していた大根に箱をかぶせて巾着からチェーンソーを取り出す。

「ちょっと待った!どうなってんのよその巾着!」
「む、司さん。授業中の私語は慎むように」
「私語は慎むようにって…… ? あなたたち、気にならないの?」
「とりあえず私たちは中にネコ型ロボットが入ってるということで自分を納得させてるわ」
「そ、そう……わたしもそういうことにするわ……」


「はい、じゃあ斬りますよー」

 ヴィーーン!

「めちゃくちゃすっぱりきれてますね……」
「さあ、中の大根はどうなったのでしょうか!?」

「今日はやたらとテンションが高いわね……」

「ダララララララ……」

 ……ゴク。

「……………」
「なぜ黙るのかしら」

 パタン。


「……じゃあ、本番行きましょうか」

「「「「大根は!?」」」」

「大丈夫だよ。本番には強いから」
「失敗してるんじゃない!」
「殺す気か!」
「どうせやるならもっと練習してからきなさいよ!」
「し、死んだらどうするんですかぁ!!」

「えーと……じゃあ誰に手伝ってもらおうかな……」


 ピタ。

「ど、どうするんだ……?」
「どうするも何も、わたしはイヤよ!」
「わたしも遠慮したいです……」
「……と、なると……」
「選択肢はひとつね」
「……そうですね」
「………え? わ、わたし?」


 イカさん、三番テーブルご指名です。


「あ、晶ちゃん。あなたまで……」
「わ、わたしも命は惜しいので……」

「う、うらぎりものーー!!」











「はぁ……はぁ……」

 がっくりと肩を落とすイカの人。

「た、助かった……」


 結局司が泣きながら地面に額をこすりつけたところで先生も人体実験を断念した模様。
 かわりにモルモットにされた猫ワルクちゃんはやっぱり真っ二つになりましたとさ。

「次の授業は〜、腹話術です」

「また分けわかんないし……」
「司さん、何か言いましたか〜?」
「ごめんなさい」


「はい、それでは猫ワルクちゃんの登場です」


 わずか五分で元の形にもどった猫ワルクをひっぱりだして腹話術を始める先生。
 ただし、痛々しいツギがある上に内臓(綿)もちょっぴりご挨拶していたけれど。



「はい、猫ワルクちゃんご挨拶〜」
『おれの出番だぜ!』

「「「「おぉ〜〜」」」」


 絶対バレバレだと予想していただけにうまかったことに衝撃を受けた模様。

「えへへ。受けてるみたいだよ猫ワルクちゃん」
『いい感じだぜ!』


 パチパチパチ……

「意外ね」
「意外だな」
「意外だわ」
「意外ですね」

「むぅ〜、みんなして意外意外って……じゃあもっとすごいの見せてあげるんだから」
「すごいの?」
「うん、合唱するの。いくよ、猫ワルクちゃん」
『俺も歌うぜ!』

「『あのち〜へい〜せ〜ん〜♪』」


「わぁ! すごいすごい!」
「ちょ、ちょっと待て晶! これは腹話術じゃないだろ!」
「そうよ! 羽居、それ本当に人形なの!?」
「さっき切断された時に聞こえた悲鳴は空耳じゃなかったのね……」

「えへへ〜、7つ道具番外編の1、勇気の花なのだ」
「もはや「7つ道具」じゃないわね……」
「勇気の花ってなんだったっけ?」
「たしかアンパンマンの動力とか、そんな感じだと思いますけど……」

 うろおぼえなんであんまり深くは突っ込まないでください。

「っていうかそんなものが実在したことが驚きだわ……」









「はい、じゃあ三時間目。経済学です」
「いきなりまともになったわね」
「うん、最近金欠でこまってるんだよー」
「おまえの小遣い事情か」
「確かに羽居はいろいろ買ってるからいろいろ大変でしょう」
「っていうか三澤さん月いくらぐらい使ってるの……?」
「え? うーんと、○○円くらいかなー?」
「ど、どこの富豪ですか!?」

「何買ってるんだお前……」
「え〜、普通だよー」
「少なくともわたしはチェーンソーを持ち歩く女子高生にあったことはないわね」
「そのうちバイクとか持ち歩きそうね……」
「ナナハンならあるよ?」
「あるのか!?」
「うん、見る?」
「いらんわ」
「絶対甘味中毒のアオダヌキが入ってるわ……」
「あの……三澤先輩、ちょっとその巾着の中身見ていいですか?」
「うん? いいよー」
「はい、では失礼して……」
「や、やめろ晶! 以前羽居の巾着を覗いたやつが精神病院送りに────」
「……………」








 みぎゃあぁぁぁぁぁ………










「四時間目は国語ー」
「だんだん普通になってきたな」

 ネタ切れとか言うな。

「っていうかお前国語なんて教えられるのか?」
「今さらでしょう。何一つ成立した授業なんてないんだから」
「それもそうだな」
「それよりあそこでいい感じに壊れてる晶ちゃんはほっといていいの?」
「……落ち武者が……落ち武者が……」
「ドロップアウトした同人娘は置いといて話をすすめましょう。どうせそのうち復活するでしょうし」


「最近日本語が乱れてきていますがー」
「お、まじめに授業するみたいだな」
「そうね。最たるものは変な形容詞かしら」
「そういえば、わたしも気になってるのが何個かあるわ。「鬼」ってどういう形容詞よ」
「微妙に古いな」
「あ、揚げ足とらないでよ」
「まあ、「すごい」ってのも本来形容詞なのに副詞として使われてる傾向があるわね」
「先生なのにわたし置いてけぼりくらってる……」
「じゃあ、意見を言えばいいだろ。何か気になってることとかあるか?」
「羽居に日本語のおかしいところを指摘させてどうするのよ。この子が使う言語からしてめちゃくちゃなのに」
「うーん。秋葉ちゃんがひどいこと言ってる気がする」
「微妙に気づいてない感があるあたり三澤さんって幸せよね」
「でも、それが三澤先輩の魅力ですから」
「あ、おかえり晶ちゃん」
「はい?なんのことですか?」
「なんのことって、さっきあなた────」
「四条さんストップ。忘れることで自分を守ってるんだから思い出させないであげて」
「う、うん。わかった……」
「? そういえば三澤先輩、この前校庭で何かやってませんでした?」
「えーっとね、会話してた」
「会話?」
「また例の異星人か?」
「ううん、いつもの人とは違う人ー」
「……なんだか詳しく聞くのが怖い話ね」
「この子があさっての方向をみて黙り込んでいたら交信してると考えていいわ」
「……交信、ですか?」
「ああ、本人いわくいろんな星座のやつと会話してるんだと」
「結構楽しいよー。一緒に話してみる?」

「却下します」
「また今度な」
「わ、わたしもちょっと……」
「丁重にお断りさせていただきます」

「みんなひどい……」

「三澤さん、ウルトラマンとかとも話したことあるの?」
「デスラーさんなら……」
「総統生きてたんですね……」
「って、結局ほとんど国語に関して触れてないわね」
「もはや座談会だな」
「……た、たまにはいいんじゃないですか?」
「今日の話は軒並み元の話題からそれてるけどな」










「5時間目、家庭科〜」
「……………」
「……遠野、なぜ急に黙り込む?」
「な、なんでもないわよ!」
「遠野先輩は家庭科で習うような技術を習得する必要ありませんから……」
「いや待て晶。遠野は兄に手料理を作るべく日々努力を重ねているんだぞ」
「料理上手なお手伝いさんがいるから難しいんだけどねー」
「蒼香、羽居。余計なこと言わないで」
「秋葉さんの意外な一面を見た気分だわ」
「……四条さん、なにかおっしゃいました?」
「すいません。何も言ってないので延髄切りだけはやめてください」
「いや、そこまでするつもりは……」
「すっかりトラウマになってるな」
「四条さんあの時部族みたいになってたもんね〜」
「………うぅ……」
「あの……トラウマが開ききってるようなのでそのへんにしといたほうが……」
「……それもそうね。ともかく、琥珀がいる限りは難しいわね……」
「でも志貴さん手作りのものは大抵おいしそうに食べてくれますよ?」
「そうなのか?」
「ええ、この前も……」
「この前も?」
「ええ、この前も────」
「なぜあなたが兄さんに手作りのものを食べさせることができたのかしら?」
「……そ、それはその……想像、想像の話です!」
「なんだ……紛らわしいこと言わないでよね……わたしはてっきり────」
「晶ちゃんすごいんだね。過去のことを想像でいえるんだ」
「あ……」
「……瀬尾?」
「……いや、遠野先輩。これはですね……」
「地雷踏んだみたいだな」
「……え? 何のこと?」
「いや、元はといえば晶が自滅したようなもんだからあんまり深く考えなくていい」

「ちょっと詳しい話を聞こうかしら?」
「あぁぁぁぁぁぁ…………!」

「晶ちゃんもトラウマできそうだね〜」
「晶の場合はトラウマというより遠野恐怖症といったところだな」















「6時間目、体育。これで最後だよ〜」
「最初のほうとはもう別物だな」

 深いところまでは突っ込むな。

「っていうか、体育って外にでて何かするわけじゃないのね……」
「三澤さん運動するほうじゃないしね……」
「え〜? わたしだって運動できるよ〜」
「ちなみに三澤先輩の得意なスポーツって何ですか?」
「そういえば気になるわね。何かあるの?」
「え〜っとね。踏み台昇降とか」
「……それってスポーツなの?」
「まあ、らしいといえばらしいわね」
「そういう遠野はなにかあるのか?」
「……絶対格闘技だわ」
「…………」

 ドゴッ!

「……司ちゃん沈黙〜」
「う、うかつなこといえませんね……」
「おまえさん最近凶暴さに磨きがかかってきたな」
「わ、わたしは蒼香にならって……蒼香の方が凶暴じゃない!」
「わたしはおまえさんみたいに嬉々として暴力は振るわないよ。単におまえさんの気性の問題だろう」
「く……」
「つ、月姫先輩……遠野先輩のこめかみに青筋が……」
「大丈夫。ここで暴れたりはできないさ。そんなことすれば後々のイメージに響いてくるからな」
「ものすごい邪悪な笑みですね……」
「…………
「ん?」
「なめんじゃないわよ!」
「ちょ、ちょっと待て遠野! 落ち着け! く……晶、羽居! 遠野を押さえるのを手伝え!」
「え、ええ!? 絶対無理です!」
「秋葉ちゃん大暴れだね」
「な、なごんでないで手伝え! いいのか遠野!? お前変な噂が広がっても知らないぞ!?」
「いいのよ。ここで全員の記憶を飛ばせばいいんだから」
「わ、わたしも巻き添えですか!?」
「むちゃくちゃなまま授業しゅ〜りょ〜」













おまけ


「ほーむるーむだよー」
「…………落ち着いたか?」
「……ええ、はしたないところを見せてしまったわ」
「結局何もしてない晶ちゃんと司ちゃんだけがノックアウトされたね」
「トラウマ増幅キャンペーンだな」
「……言い返せないのが悔しいわね」

「そんなことより最初のコンセプトはどこにいった」
「まあ、たまにはこういう原型をなくしたのもいいでしょ」
「わたしが主役のはずだったのに……」
「天然だからな……扱いづらいんだろ」
「しかも「どたばた」でもないわね」
「唯一守れたのが10k以上ってところか」
「半日費やしてようやく12k……長文作家って偉大だわ……」
「でも書いてて一番楽しかったよね」
「リクエストした空色さんに深く陳謝、ってところかしら。まあ、またいつかこんな風にやるのもいいかもしれないわね」
「久々に書いたキリリクがほとんどリクに沿ってないのは大いに反省するべき点だけどな。全く、こんなんだからリク数も減るんだ」
「まあ、いきなりは無理でしょうし。おいおいかけるようになっていきましょう」
「じゃあ、そろそろ今日の授業(?)はこれにて終わりでいいかな?」
「そうだな。あんまり書いても蛇足にしかならない」
「じゃあ、解散しましょうか」
「うん、じゃあここまでおつきあいくださいましてありがとうございましたー」








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