独善哀歌
お父様が亡くなった。これで遠野家の家長は私になる。 志貴兄さんがいなくなってから8年間、私は自分の意思を殺してお父様が望む通りの娘に育ったと思う。 そしてこれからは親戚の方々の言うとおりにしなくてはならないだろう。 ひとつだけ、本当にひとつだけ私はわがままをいってもいいだろうか? もし許されるなら私は━━━━ 兄さんに、会いたい。 独善哀歌 有間家にいた兄さんが帰ってくる。私が呼んだからだ。 親戚はみんな猛反対したけど、そんなことは関係ない。私は一つだけわがままを言うって決めたから。 琥珀「あらあら秋葉様、そんなにそわそわしなくても志貴様は帰ってきますよ?」 秋葉「べ、別に私は兄さんを待ってるわけじゃ・・・!」 琥珀「はい。今のは私の願い事でしたね。すいません」 秋葉「あ・・・・」 言葉を失った私を見て楽しそうな笑みを浮かべたあと、琥珀は玄関の方へと消えていった。 琥珀はこの屋敷の、有体にいえば召使いだ。 琥珀とその双子の妹の翡翠を除く召使いには暇を出してある。 兄さんが帰ってくるのにあんまり人がぞろぞろいるのも見苦しいし、兄さんもそちらの方が喜んでくれるんじゃないだろうか。 もちろんここに居候してた親戚にも出て行ってもらった。彼らが兄さんにいい影響を及ぼすとは到底思えない。 だから、この屋敷には今、私の他には琥珀と翡翠しかいない。 しかし、琥珀に見破られているなんて、そんなに私は取り乱しているのだろうか? まあ、あの子はあれで勘がいいから私が兄さんを呼び戻すといった時点で全てばれているのかもしれないけれど。 なにやら玄関の方で話し声が聞こえる。 琥珀「志貴様、ですよね?」 志貴「え━━━━ああ。さまっていうのは、その、余計だけど」 ━━━━帰ってきた・・・! とびだそうとする自分を必死に抑えて兄さんを待つ。 秋葉「お久しぶりですね。兄さん」 志貴「・・・・・・・・・・・」 返事はない。やっぱりこの屋敷に帰ってくるのはいやだったのかしら・・・ 秋葉「兄さん?」 志貴「あ、━━━━いや」 ああ、よかった。返事が返ってきた。 秋葉「━━━━」 志貴「━━━━」 ああもう、会話はしてるけど、頭が真っ白で何を喋ってるのかよくわからない。 兄さんが眼鏡なんてかけてるのも、頭がしっかりしてくれない原因の一つだろう。 志貴「いや、それにしたって秋葉は変わったよ。昔より格段に美人になった」 秋葉「ええ。ですが、兄さんは以前とあまり変わりませんね」 ふと言われた言葉につい反応してしまった。 でも、その言葉に嘘はない。 だって兄さんは、本当に8年前から変わらない、やさしい目をしていたから。 その後しばらく兄さんと話して、それから各自部屋に戻った。 秋葉「最悪・・・・」 結局兄さんにはつっけんどんな物言いしかできなかった。 もっといっぱい言いたい事があったはずなのに。 そんな反省をしながら、夜は穏やかに過ぎていった。 次の日、夜になっても兄さんは帰ってこなかった。 琥珀「秋葉様。もう就寝時間ですが」 秋葉「ええ、今夜はあなたも休んでいいわ」 琥珀は最初は意外そうに、それからなにやらを愉快そうな表情を見せてから 琥珀「はい、それでは今日はお先に休ませていただきますね」 と言った。 秋葉「ええ、翡翠にも━━━━」 琥珀「はい、翡翠ちゃんにも言っておきます」 ・・・・どうやら琥珀に隠し事は通じないようだ。しょうがないので全て彼女に任せる事にした。 それにしても・・・こんな時間になっても帰ってこないなんて、そんなにここがイヤなのかしら・・・ そんなことを考えていると兄さんが帰ってきた。 秋葉「……兄さん?」 志貴「え━━━━秋葉?」 なんてこと━━━━死人みたいな顔をしてるから一瞬兄さんだとわからなかった。 それに、よくみてみると肩に怪我をしていた。 全く━━━━この人は普段どんな生活を送っているんだろうか。 秋葉「事情はあとで聞きますから、今は治療を先にしましょう。兄さん、少し失礼します」 いまはとにかく治療しなくてはならない。 兄さんに断ってから肩の傷に軽く触れてみる。 それだけで兄さんは体をすくませた。自分の手を見てみるとぬるりとしたものが付着していた。 秋葉「・・・・これだけ深いと琥珀では無理ですね。私が手当てしますから、居間の方に行っていてください」 この傷は普通の人間がやるような手当てでは無理だ。兄さんと命を共有している私でないと━━━━ 兄さんを居間に向かわせた後、私は応急セットをとりに行った。 多分こんなものはいらないけど、止血はしておいたほうがいいだろうし、一応手当てをしたように見せておいた方がいいだろう。 だって、こんなのどう考えても普通じゃない。 兄さんが私を人間じゃないような目で見てくるなんて、私には耐えられない。 志貴「……聞かないんだな、秋葉」 秋葉「聞かないって、何をですか?」 志貴「その、さ。俺がこんな時間に帰ってきた理由とか、こんなケガをしてる理由とか」 秋葉「兄さん。私、物事の順序くらいわきまえているつもりです。今の兄さんにはまず手当てが必要だったから、あくまでそちらを優先させただけでしょう」 そう、今の兄さんには手当てが必要だったし、なによりそんな思いつめた顔をしてる兄さんを問い詰める事ができない。 全く・・・・・まあこの人のことだからまた厄介ごとにクビをつっこんでるんだろうけども・・・・ このひとはこんな無茶を繰り返すのだろうか・・・? 自分の身の安全を省みずにこんな怪我を負うだろうか・・・? もし、この人が死んだら・・・ いや、絶対に死なせない、死なせてなんかやらない。 例え、私が死ぬ事になったとしても。 結局、一つきりじゃなくなったけど。 神様、許してくれますか? 独善的な、私のわがまま━━━━ |
えー、と・・・・
籠丸さんすいません!
俺の書くシリアスなんてこの辺が限界です。
何度ボケたい衝動と戦った事か。
しかし・・・そのうち9999、10000と連続で来るわけですな。
できればシリアスは回避したいですね。
それでも感想はお待ちしています。
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