こんにちは、安藤隆です。ただいま、上空から生まれ育った街を眺めてます。
 突然ですが。俺、死んでしまったようです。







あんどっち、逝ってしまう。







 ──と、とりあえず乗ってはみたが。
「……『死んでしまったようです』って軽すぎるっつうの! こういうのって、もっとこう重苦しくやるもんだろうが!?」
「ナイスノリツッコミ」
「そういう問題じゃ……だれ?」

 軽いパニック状態だった俺の目の前には、いつの間にやら髪を肩口くらいで切りそろえて、カーテンを巻きつけたような、例えるなら「古代ギリシャ!」って感じの服装の10歳くらいの女の子が拍手していた。変だ。ちなみに俺、16歳です。

「ふんふん……むしゃくしゃしたサラリーマンがノリで線路にダイブしたのを助けにつっこんで代わりに跳ねられた、と。あっはっは。君、ついてないね〜」
「こっちの質問は完全に放置しといて爆笑ですか」

 ぶっ飛ばしたろかこのガキ。

「ああ、わたし? わたしは矢田美樹。天使やってます」

 なるほど、天使ね。……つまり、頭がおかしいと認識していいわけだな?

「……わかった。で、その美樹ちゃんが何しにきたの?」
「──君、信じてないでしょ」
「まあな」
「自分が死んだことはすんなり認めといて天使の存在は認めないって……なんて中途半端な順応力なの……」

 全身からうそくささがにじみ出てるからな。

「だって、天使なんているわけねえだろ」
「いるわけねえって……そ、そうだ! 見てよこの羽根! これぞザ・天使ってもんでしょ!?」
「羽根くらいで認められるか。ほれ、羽根の生えたのならそこら中にいるだろ」

 むしろやつらのほうがすごいんじゃなかろうか。こいつとカラスがガチンコ勝負した時にこいつが勝つ場面を想像できない。

「鳥と同レベル!? これ実習生レベルになってやっともらえるのよ!? エリートの証よ!?」

 知らんがな。

「で、その鳥人間がなんの用だ?」
「こっちの主張は全部スルー?」
「お互い様だろうが」
「君いい根性してるわ……まあ、いっか。わたしは君を迎えに来たの」
「迎え?」

 俺は幼女に迎えにこられる覚えがありません。なんのこっちゃ。

「うん。天界に行って学校に通うの。その名も素敵『天使専門学校』よ!」
「ださっ」
「しばくよ?」

 ……あ、マジギレっぽい。

「……ごめん」
「よろしい」
「──で、謝ってはみたものの、いまいち状況が飲み込めてないんだけど?」
「う〜ん……まあそれもしょうがないか。とにかく、私についてきて」
「小さいころ知らない人についてくな、て言われたのは俺だけか?」
「つべこべ言わない。地縛霊になるよりマシでしょ」
「あー。確かにそりゃごめんだ」

 実のところよくわからんけど。まあ、その手の番組でもなんか不吉っぽく言われてるからあんまりいいもんじゃないんだろう。

「で、どうすればいいんだ?」
「だから、ついてきて、て。めんどい手続きとかはわたしがやったげるから」
「なるほど……で、その『天界』だっけ? どこにあるんだ?」
「あっち」
「ふ〜ん……」

 ……美樹ちゃん、行き先教えてくれてありがとう。でも、「あっち」って言ってるあんたの指先がこれ以上ないってほど真上を指してるように見えるのは俺の気のせいですか?

「いけるかバカ」
「バカあつかい!?」
「空の上じゃねえか!」
「あたりまえでしょうが! 伊達に『天界』って名前ついちゃいないわよ!」
「どうやって行けってんだ!」
「ちょっとくらい人の話聞きなさいよ! マジぶっ飛ばすわよ!?」
「む……」

 確かに、美樹の言うことももっともだ。何もわからない以上こいつの話を聞くしかないってことか。……なんか怖いし。

「すまん。俺が悪かった」
「素直なのかひねくれものなのかよくわからないわね……」
「一応自分が悪いと思ったことなら謝るくらいの素直さは持ち合わせてるつもりだ」
「自分でいうことじゃないね」

 よく言われます。

「……まあいいや。今のはそれなりに好印象だったし。で、方法だけど……簡単。飛んでいくの」
「……マジで?」
「うん。だって君、現在進行形で飛んでるじゃん」
「おぉ!?」

 確かに飛んでた、そりゃあもうふわふわと。っていうか一行目で思いっきり「上空から」って言ってるしな。……一行目?

「あはは、気づくの遅いねー」
「いや、飛べるなんて思ってなかったし……」
「まあ、それもそっか」
「……なあ。ひとつ聞いてもいいか?」
「なに?」
「何もなくても飛べるってんなら、その羽根ってなんか意味あるのか?」

 エリートだかなんだか言ってたけど、俺にはただの飾りにしか見えなかった。

「あー、ごもっともな質問。まあ、今は一番わかりやすい違いっていったら君よりはるかに早く飛べるってことくらいかな」
「今は?」
「うん。天界では君は飛べないけど羽根を持ってるわたしは飛べるの。まあ、あんまりやらないけど」
「そりゃまたなんで?」
「まだ使いなれてないからかな。使うの今日が初めてだし、その……」

 なぜそこでうつむいて顔を赤らめる? いや、まあそれはいいとしてもだ。

「思いっきり若葉マークじゃねえか」
「だ、だってしょうがないでしょう。一人で下界にくるための許可証もかねてるんだから」
「……ちょっと待った。ってことはおまえこっちは初めてか」
「一人では、ね」

 すっごい不安なんですけど。
 そんな俺の顔をみてさっきの恥ずかしそうな顔はどこへやら、がっつり元気を取り戻している。

「ああもう、そんな顔しない。そんな難しいことじゃないんだし」
「……本当に?」
「ええ、君を天界に連れて行って書類書くだけだもの。何か難しいところ、ある?」
「……なんの書類だ?」
「あー、説明めんどいからパス」
「適当すぎだろ」

 本当にこいつについて行って大丈夫か俺?

「別にいいじゃない。結構多いのよ。わたしは名前書くだけでいいんだけど」
「なるほど、そりゃ簡単だ。……んじゃ、さくっと連れてってくれるか?」
「ええ、なかなか話が通じるみたいで助かるわ」
「おう、もっと褒めてくれ」
「……前言撤回」
「なんで!?」
「まあいいけど。かなりごねる人も結構いるらしいしね」
「ふーん……そういうもんか」

 まあ、いきなり天使だの天界だの言われて「はいそうですか」って言えるやつもそうはいないか。

「ええ、中途半端に順応力があって助かったわ」
「中途半端いうな! はよ連れてけ!」
「それもそうね。見たいテレビあるし」
「しばくぞこのガキャ」

 なんてファンキー天使だ。こいつの中では 俺の命(?)<テレビ番組 という図式ができあがってるんじゃないだろうかと本気で疑ってしまう。

「置いてってもいいのよ?」
「うっわ、性格悪っ!?」
「ジョークよ」

 初対面でハイなジョークをかますなバカたれ。

「? 何か言いたいことでもあるの? 若いんだからためこまないほうがいいわよ?」
「黙れ幼女」
「く……言わせておけば……!」
「漫才はこの辺にして、いい加減本当に出発しねえか?」
「……それもそうね」

 言うがはやいか俺に背を向けて上にむかって飛ぼうとした美樹だったが、すぐさま停止してこっちを振り返った。

「……その前にひとつ。大事なこと忘れてた」
「……は? 俺がしなきゃならんこととかあるのか?」
「はぁ……まったく、頭がいいのか抜けてるのか……」
「む。なんだよ、はやく言えよ」
「名前。わたしは名乗ったのに君の名前聞いてない。それともずっと『君』って呼ばせる気?」
「うわっ」
「『うわっ』ってなによ。大事な話じゃない」

 ──いや、かわいいなどとは思ってない。ときめいてないぞ、うん。幼女だし。

「幼女の分際で……」
「なんかいった?」
「安藤だ」
「え?」
「安藤隆。名前、聞きたかったんだろ?」

 美樹は一瞬ポカンとしていたが、やがて満面の笑みを振りまいてから、

「オッケー。じゃ、いこっか、あんどっち」

 変なあだ名つけやがった。

「それ呼びにくいだろ!?」
「いいじゃない。ほら、置いてくよ?」
「……はや! ちょっと待て! 俺まだ意識して飛んだことねえんだぞ!?」
「がんばれあんどっち」
「人事かよ! あと、あんどっち言うな!」

 とりあえず、全力で美樹を追いかけてみる。どうなるんだ俺の人生……いや、人生は終わってるのか? よくわからん。










 ……でも、どうやら安穏な死後は送れないことだけは、確からしい。







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