こんにちは、安藤隆です。ただいま、お空の上にいます。
 突然ですが。俺、天界とやらに行くらしいです。







あんどっち、天界入りする








「あんどっちー、着いたよー。いやあ、羽根あるとホントに早いねー。びっくりした。普段なら結構早めに飛んでるスピードだったよ。ナイスガッツ、あんどっち」
「げほ! うえっ、げっほ!!」

 このやろう、俺の全速力を読み取った上で全力でここまでこさせやがった……
 ノンストップで雲の上にある門まで飛ばせやがって……マジでいい性格してやがるこのガキ。

「あー、じゃあわたし手続きに行ってくるからあんどっちはそこで休んでていいよ」
「げっほげほ! ……あんどっちって……ぜぇ、ぜぇ……言う……」

 くそ……反論もできねえ……

 とりあえず、疲れをとることを優先させようと仰向けにぶっ倒れた。
 ここが天界か……でっけえ門だなおい。っていうかなんか意外とマンガチックだ。ふわふわ雲の地面とかが特に。こういうのってもっと現実的なもんだと思ってたんだけど。でもって固さは普通の地面と変わらないのがさらに気持ち悪い。

 そんなことをぼんやり考えながら数分。ようやく落ち着いてきた。

「あのガキ絶対いつかへこましてやる……」
「どした? 疲れ取れた?」
「おぉぉぉおぁぁ!?」

 じんわりと陰口たたいてたら頭の上から美樹がいきなり顔を覗かせてきた。

「いきなり何してくれてんだ!」
「? 何って、疲れ取れたかなって。変?」
「問題はそこじゃねえ! いきなり顔を出すなって言ってんだ!」
「あはは。あんどっち、細かいこと気にしてると大きくなれないよ?」
「てめえどうあってもその呼び名を通す気か……」
「……タカピーの方がいいかな?」
「……本気でいってんのか?」
「勿論だよ?」
「……あんどっちでいい」

 天然にはかなわん。つつけばつつくほど不名誉なあだ名をつけられそうだ。

「? よし、それじゃ逝こうかあんどっち」
「いくって……どこに?」
「どこって、天界って言ったじゃない。話聞いてたの?」
「いや、それは聞いてたけど。天界ってここだろ?」
「ああ、そういうことか。ううん、ここは門だからまだ天界じゃないの」

 なるほど。まあ、よくよく考えるとこんな門以外何もないところが天界とか言われたらいよいよもっていろんなものがはじけとびそうだし。って、ちょっと待て。

「聞きたいことがあるんだけど」
「ん? なに?」
「この門の向こうが天界なんだよな?」
「そうだよ?」
「……門の向こう側の風景がこっち側となんら変わらないように見えるのは俺の気のせいか?」
「えっとね。そういう風に作ってるんだって。門をくぐったらちゃんとした街があるよ」
「なんでまたそんな回りくどいことを?」

 そこには存在を隠さなければいけない理由とさまざまな神秘的な力が作用して──

「知らない。なんか無駄だよねー」
「適当だなおい」
「いんじゃない? 別に損するわけでもなし」
「そりゃそうだけど……」
「じゃあすっきりしたところで逝こっか」

 えらくマイペースなやつだ。

「微妙なすっきり感だけどな……ってちょい待ち。今お前不吉な文字を宛てただろ」
「え?」
「え?じゃなくて。『逝く』て。『行く』にしとけ」
「あってるよ? あんどっち、死んじゃったんだから」
「あ……」

 美樹のなんでもない一言に衝撃を受けた。
 ……そういえばそうだった。なんかえらく緊張感のないのが来たから実感わかなかったけど。死んだってことはもう家族にも会えないわけで。

 自我が芽生えたときには母親はいなくて、妹と、父親の三人で暮らしてた。母親は妹が生まれてすぐに死んだらしい。妹の雪美とは年子だから、当時の俺は1歳にもなってなかったわけで。まあ、いまさら母親に会いたいってわけでもないけど。いい暮らしができてたわけじゃないけど毎日はそれなりに退屈でそこそこに楽しかった。今頃二人とも、どうしてるんだろうな……

「……どした? あんどっち」
「いや、今頃家族はなにしてんだろうな、って思ってな」
「ふーん……会いたいの?」
「まあ、そりゃあな。でも、死んじまったら会えねえだろ。諦めも肝心、気持ちの整理中だ。すっぱりと忘れるのは無理だろうけどその努力くらいは──」
「会えるよ?」
「……は?」





 ……こいつ今、なんていった?





「あ、え……?」
「だから、会えるって」
「……ギャグ?」
「本気」
「…………マジで?」
「マジで」

 えーっと、ギャグじゃなくてマジで本気ってことはつまり俺は雪美にもパパ成(あだ名、本名正成)にも会えるというわけで・・・…

「どゆこと!?」
「えーっとね。死んだ後でも、二親等までの血族には会えるの。勿論条件つきだけど。その時がきたら教えてあげる」
「すると何か? 柄にも無くしんみりとしたことを考えて垣間見えた俺のこの意外な一面も全部無駄ってことか?」
「? ……よくわからないけど、そうなんじゃない?」
「くわー! あっさり肯定しやがったこんちくしょう!」
「もう、一人で落ち込んだり怒ったり、あんどっちおかしいよ?」
「はは、はははは……」

 なんかもう、真面目な事考えるのがバカらしくなってきた。うん、ちょいと早め一人暮らしをはじめたと思えばそう大変なことじゃないな。多少思考に無理があるのはこの際愛嬌ってことにしとけ。

「……あんどっち。頭、大丈夫?」
「……おう。心の準備は万全だ。もう矢でも鉄砲でももってこい」
「矢も鉄砲ももってこないよ?」
「気にすんな。言葉のあやってやつだ」
「よくわかんないけど、元気になったみたいだね。じゃあ、張り切って逝ってみよう!」
「どんとこいや!」

 ずんずん歩いていく美樹に続いて門をくぐりぬける。
 その途中、守衛っぽいおっちゃんに声をかけられた。

「おお、あんたかい。美樹ちゃんの連れてきた中途半端な順応力をもった子ってのは」
「ぶっ!」

 おっちゃんの開口一発爆弾発言のせいで昔のマンガみたいな噴出し方をしてしまった。

「てめえそんなこといってんのか!?」
「うん。だって普通いないよ? 自分が死んだのをあっさり認めれるのに天使の存在だけは認められない、て人」
「……いや、それは知らんが」
「はっはっは。美樹ちゃんの言うとおりだ。にーちゃん微妙な順応力してんなー」

 羽のついたおっさんは笑いながらさらっと毒を吐いてくれた。こいつも幼女と同類か。

「……こうまで立て続けに微妙だの中途半端だのいわれると本当にそうなんじゃねえかと思えてくるな……」
「まあ、細かいことは気にしなさんな。大きな男になれんぞ?」
「いや、それはそうだけど……」

 もうちょっと人の心の機微には気をつかってほしい。……ってちょっと待て。今のセリフ、もしかして……

「ひょっとしてこいつに『大きな』ての仕込んだのあんたか?」
「おお、よくわかったな」

 わからいでか。幼女は一人でそんな親父めいた言葉は覚えん。

「とにかく、あんたついてるよ。美樹ちゃんはやさしいし、優秀だからな」
「優秀かどうかはしらんが、こいつがやさしい!? 鬼みたいだぞ!」

 基本的には俺の都合を無視してくれるしな。

「あんどっちうるさい。じゃあ、そろそろ行くねやっしー。見たいテレビあるし」
「おう、また気軽に遊びにこいな。にーちゃんも」
「うん、じゃあね」
「……まあ、機会があったらな」


 そうしておっちゃんと別れて門をくぐった。


「ホントにちゃんと街があんのな……」
「うん、わたしウソはつかないよ?」
「だな……お前と会って少ししかたってないけどそれくらいはわかるわ……にしてもホントにメルヘンチックだな……」

 虹の橋まであるのか……頭痛くなってきた。

「何きょろきょろしてるの?」
「いや、なんていうか一般に想像されてる天国とかわんねえなーって」
「まあ、ここのことを夢に見る人も結構いるし、そういう人たちが作りあげたイメージが浸透したんだろうね」
「そうなのか?」
「うん、それもさっき言った家族に会うこととちょっとだけ関係してるんだけど、まあ今はめんどいから説明はパス、と」
「お前結構めんどくさがりなのな……で、これからどうするんだ?」
「とりあえずわたしの家にいってからでかけるつもり。あんどっちの生活用品も調達しなきゃいけないし」

 ……そうしてくれるとうれしくはあるけど、世話になりっぱなしというのも……

「えーっと……そこまでしてもらっていいのか?」
「いいも何も、一緒に住むんだからそのくらいはしといたほうがいいでしょ?」
「……はい?」

 もう数えるのも億劫になってきた本日何個目かの爆弾投下。幼女爆撃機。撃墜数は他の追随を許さない勢いだ。

「だから、わたしの家に行くの。ほらほら、こっちこっち」
「ちょっと待て! そこじゃねえ! ツッコミたいのはその先だ!」
「あとあと。とりあえず休みたいでしょ? わたしもゆっくりしたいんだから」
「ああコラ! 引っ張るな! 人の話聞けこんちくしょう!」




 必死の抵抗も空しく、美樹にずるずるとひっぱられながら俺の意見は軽々とスルーされるのだった。せっかく決めた覚悟も、この弾丸幼女のおかげでたやすく崩れ去りそうだ。
 パパ成さん。死ぬって、結構大変なことみたいです。







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