こんにちは、安藤隆です。ただいま、天界にいます。
 突然ですが、幼女と同居することが決まってしまいました。







あんどっち、買い物する。





「……で?」

 家に帰って一息ついてまったりとしてる天使仮免の幼女に向かって問いかける。一方完璧に脳のスイッチがオフに入ってる幼女はというと。

「……で?って何?」

 寝ぼけた返事をくれました。とりあえずそのテレビに向けてる顔をこっち見せてみろや。

「何が?って。買い物に行くっていったのお前だろ」
「あー、テレビ見てからね」
「あ゛?」

 完璧にゆるみきってる幼女に向かって全力でガンを飛ばす。もともと目つきがいいほうではないのでメンチの威力は人一倍だ。ケンカは強くないけど。

「そんなに長くないから。あんどっちも疲れてるでしょ? 休んでなよ」

 いいながら美樹は羽をはずす。これで何の変哲もないジャリンコが一匹出来上がったわけだ。

「今なんか言った?」
「いってないっす!」

 どうやら読心術に羽はいらないらしい。そんなことよりおっそろしいメンチをきられて思わず敬語になってしまった。恐るべし幼女。
 まあ、確かにまださっき(幼女がかっとばしたがために)全力でかっとんできた疲れも抜けきってないし、少しくらいなら休んでも……

「よし。じゃ、いこっか」
「早くねえ!?」

 休もうとした矢先に出かけるってか。

「あんどっち出かけたがってたでしょ?」
「いや、確かに俺から話は振ったけど。テレビはどうした?」
「10分ドラマだから」
「なるほど……」

 ここまでくるともはや俺の都合の悪いようにことがめぐってるとしか思えない。

「どした? もうちょい休んでいく? それともわたし一人で行ってこようか?」
「……いや、いい。やることしっかりやってからゆっくり休むわ」
「ふーん……あんどっちは好物を最後に食べるタイプだね」
「なんだその例え?」

 相変わらずマイペースなやつだ。いや、あたってるけど。


 そうして買い物に出てみたが、なにか天界ならではの特別なものがあるのかと思っているとそんなことは全くなく。多分地上で一人暮らしをすることがあったならこういうものを買出しに出かけてたんだろう。しかし……しかしだ。

「……なあ」
「何?」
「まさかとは思うがその歯ブラシ、俺のか?」
「うん。だってわたしもこの前買い換えたばっかりだし」
「……そのセンス、なんとかしてくれないか?」

 やつの手に握られたのは歯ブラシ、何の変哲もない歯ブラシだ。それの何が不満かというと、そのデザイン。ブラシがついてる側の反対に熊がいた。しかもちょうど握るところに羽が生えてた。歯を磨くときに邪魔になるとしか思えないのだが。

「えー? これが一番かわいいよ? いいの?」
「いや、お前が使う分にはいいかもしれんが俺は使う気には慣れんな。自分のものだし、俺が選んでもいいか」
「……いいよ」

 お気に入りの歯ブラシを却下されたせいか、かなり不満そうな顔をしている。ちょっと罪悪感がないでもないが、こればっかりはちょっと譲れない。
 しかし、やつのもってる歯ブラシについてる熊はかなりリアルだけど、ホントにあれが一番かわいいのか?
 とにかく、やつに任せてたら機能的にもデザイン的にもどえらいものを用意されそうだ。

「……これでいいわ」
「えー!? これぇ!?」

 ちょっと深めの緑で何の装飾もないものを持っていったら非難轟々だった。

「いいだろ別に。俺が使うものなんだし。好きなんだよ、緑」
「ん〜……それならいいけど……」

 かなりよくなさそうな顔だけどな。


 その後も枕やパジャマなどを買ったが、完璧にセンスがすれ違ってた。家で休んでなくてよかったと心の底から思う。

「あんどっちかわいいの似合うと思うんだけどなー……ぜんぜん飾りっけがないのばっかり選ぶんだもん」
「たとえ似合ったとしてもお断りだ。それより……お前結局あの歯ブラシ買ったのか」
「うん。今の歯ブラシがダメになったら使うんだ」
「そっか」

 まあ、別に自分が使うものじゃないしな。こいつが使う以上こいつの趣味に口だしするもんじゃないし。

「ところであんどっち」
「ん?」
「『お前』っていうの禁止」
「……なぜに?」
「何でって、年上にお前っていうのはダメだよ」

 ああ、そっか。そりゃ確かに失礼だしな……待て。

「今何つった?」
「わたしの方が年上だから失礼でしょ?」
「嘘だろそれ!?」
「嘘じゃないよ。だってあんどっち16歳でしょ?」
「いやそうだけど」
「わたし22歳」
「うっそだ! 絶対嘘だ! 生きる天界七不思議かお前は!?」
「あ、ちょっと傷ついた」

 言うが早いか下を向いてものすごい勢いで落ち込みだした。

「う……その、ごめん。だけど……」

 見た目10歳の実年齢22歳て。童顔にもほどがある。まあ、その筋の方が大喜びするだろう。

「まあ、説明してなかったわたしも悪いんだけど。わたしは死んだのが11歳だったから見た目がずっとそのままなの。だから、あんどっちも見た目はずっと16歳」
「……マジで?」
「わたし、嘘言わない」
「いや、知ってるけど……」

 ってことは俺はずっとこの日本の平均的16歳の体格のままってことか……まあ、こいつよりかは幾分ましだけど……

「とにかく、わたしのこと『お前』とか『こいつ』とかいうの禁止ね」
「……じゃあ、なんて呼べばいいんだよ」
「自己紹介したじゃない」
「……はぁ……わかったよ、美樹」
「うん、それならよし」

 さっきまでの落ち込んだ顔はどこへやら。美樹は屈託のない笑顔を作る。多分、こういう裏表のなさもこいつが見たまんまの年齢だって思わせてる原因のひとつだと思う。

「どうかしたの、あんどっち?」
「……いいや。荷物多いな。貸せよ」
「ああ、はい。じゃあ半分こ」
「いいからこういう時は全部渡せばいいんだよ。大体、ほとんど俺のもんじゃねえか」
「え? うん、その……ありがとう……」

 なぜそこで照れる。ともかく、美樹から荷物を受け取る。そしてそのまま歩き出して──

「……どうした?」

 前を向いたまま美樹が硬直していた。

「大事な事、忘れてた……」
「何がよ? もう自己紹介は済ませたぞ?」

 一話目と同じネタを繰り返せというのか?

「違うって! そんな冗談言ってる場合じゃないよ!」

 ……俺としては大真面目だったけど、美樹の脳内フィルタによってギャグに変換されてしまった。

「じゃあ、何だってんだよ」
「学校の手続き!」
「が、学校?」

 死んでまで学校に通えというのか? 正直言うとそれだけが救いだったりしたんだけど。いや、我ながら安いなとは思うけど。そんな俺の繊細な心情を無視して美樹は話を進める。

「言ったじゃない! 天使専門学校!」
「なにぃ!? あれ本気だったのか!?」
「本気も本気! 急いで! 今日中に手続き済ませなきゃ! 家に荷物置いたらすぐ出かけるよ! あんどっち、ダッシュ!」

 たった今硬直してた分の時間も惜しいのか、美樹はものすごい勢いで俺の横を駆け抜けていく。

「ちょっと待て! こっちは両手に荷物持ってんだぞ! そんな速く走るな! くそ、走りにくい……!」
「気合だあんどっち」
「だからそのやる気のない応援をなんとかしろ!」

 言ってる間に美樹との差が開いていく。こいつが優しいなんて……やっしーめ、俺を騙したのか? もうすこし他人を気遣ってしかるべきだこいつは。


 とにかく、もうしゃべってる暇もなさそうだ。全力で美樹を追いかける。家までフルマラソン。やっぱり家で休んどくべきだったかも……







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