こんにちは、安藤隆です。
 突然ですが。俺、今日受験に行きます。







あんどっち、激しくつっこむ








「あんどーっち。起きろー」
「んが……」

 朝か……? それにしてはやけに眠い。比較的朝は強いと思ってたんだけど……

「……美樹。今の時間は?」
「5時半」

 今こいつをぶん殴っても俺はゆるされるのではないでしょうか。

「二度寝する」
「わ……ダメだよ。もうすぐお日様も昇ってくるから」

 日の出前かこんちくしょう。

「どこの年寄りだお前は……」
「いいから。ほら、起きた起きた」

 相変わらずマイペースな美樹に布団を強奪された。

「こんな早くから起きて何しろっていうんだ……」
「とりあえず朝ごはん食べようか」

 食卓には既に昨日の野菜炒めがスタンバイされている。まあ明日食おうって言ったのは俺だから別にかまわない、かまわないけど。野菜炒めと白米、味噌汁が用意されてるのは片方で、もう片方には味噌汁だけがある。

「……これはアレか? 何かの罰ゲームで負けたほうが味噌汁だけとかそういうやつか?」
「ん? あぁ、わたしは朝はお味噌汁だから」
「なるほど……って味噌汁だけ?」
「変?」
「かなりな」

 足りるのかとかそういう疑問もなくはないが視覚的に奇妙だ。

「じゃあ、食べようか。ご飯のお代わりはたくさんあるからね」

 論点がずれてる気がしなくもないが、まあ美樹がそれでいいというのなら別にいいか。



「あんどっち。ついていかなくていい?」

 今から試験を受けに行く、となった段階で美樹は急にそわそわしだした。

「ん? ああ、道覚えるのは得意だから行けると思う」
「そっか。あ、そだ。ハンカチもった? ティッシュは?」
「どこの母親だお前は。そんなに構えることがないって言ったのお前だろ」
「それはそうだけど……」

 楽にしろといった本人がこれだけそわそわしてるとこっちとしても不安になる。
 しかし、いつまでもここにいてもはじまらない。

「……んじゃ、行ってくるわ」
「うん……がんばってね!」

 結局最後まで落ち着きの無い美樹に見送られて学校へと向かった。




「えーっと、安藤隆君?」
「はい」

 試験官はパリッとしたスーツを着込んだ真面目そうなおっさんだった。さぞかしメガネが似合うだろう。

「じゃあテストね。まあテストって言っても大したことやんないから気ぃ楽にして良いよ」
「えっと……詳しい説明とかは……」
「あーっとね。学年ごとに学ばなきゃいけないことが何個かあるんだけど、それをどこまでこなせるか調べるのね。まぁよほどヘタレかよほど天才じゃなきゃ普通に一年からやることになるからそんなに難しく考えなくてもいいよ」

 真面目そうなおっさんは一撃で俺のイメージを壊してくれました。っていうか俺がヘタレだったときのことは考えてくれてんのか?

「じゃあこっち来て」

 ……かなり不安になってきた。









「よし、そこに飛び込んでみて」
「……ここ、ですか?」
「うん。大丈夫、落ちても助けるから」

 試験官に最初に連れて行かれたところはサッカー場が作れそうなほどでかい穴が開いているところだった。いや、別に穴が開いてること自体はかまわないけど。

「いや、大丈夫って言われても……この穴、どれくらい深いんですか? 底が見えないんですけど……」
「底? ないよ?」

 絶望的な状況だ。

「それ、ほいっと行ってみよう」
「いや、『ほいっと』って言われてもこの深さは……」
「……ちょっと待った。何だアレ……?」
「え……?」

 試験官が不審そうに指差した先に思わず目をやる。

「はい、ドーン」
「え? あ、ぎゃあぁぁぁぁあああ!」

 その瞬間に背中を思いっきり押されていざ行かん穴の中へ。終わった。俺終わった。あの似非エリートマン絶対呪ってやる。っていうか俺まだ天界入って二日目だよ。口利いたやつなんて両手の指で充分ことたりるぞ。せめて雪美とパパ成にこいつらの危険性を……あれ?

「……浮いてる?」
「はい、合格ー」
「あの……?」
「ん? どうした、何か質問が?」
「……俺、天界では飛べないって聞いたんですけど」
「あぁ、その穴は別。下界と同じだから、少なくとも死んだ時に浮くことができてりゃ浮いてられるよ」
「さ……」
「さ?」
「先言えやー!!」
「あー、ほら。聞かれなかったから」

 こいつもか? こいつも重要なことをすっぽかすタイプなのか!? それともここでは俺の方がずれてるのか?


 その後もいろんなことをやらされた。難易度も分数の足し算のような簡単なものから砲丸を50m飛ばせなどという「そこは失敗しとけよ、人として」というようなものまで様々で、一通りこなすしたころには日も暮れてきていた。


「よ〜し、お疲れ。結構優秀だね。まあ、一年からやることに変わりはないけど。じゃあ、次で最後だから」
「そうですか……」

 なんというか、体力的にというより精神的に疲れてる気がする。

「じゃあこの棒持ってみて」

 試験官に渡されたのは何も特徴の無い、敢えて言うのなら特徴がないことが特徴であるような白い棒だった。

「持つだけ……ですか?」
「うん、1分くらい」
「えっと。はい、わかりました」

 今までいろんなことをやったが、全く意図のわからないものはこれだけだった。
 しかし、30秒くらいたってから徐々に色が変わり始め、1分たつ頃には白かった棒は淡い緑色に変わっていた。

「あの……色が変わったんですけど」
「あ、変わった? 変わったか……うん、じゃあちょっとそれ貸して。30分くらいしたら戻ってくるからそれまで待っててもらえるかな?」
「はぁ……」

 最初に喋ってから終始けだるそうにしてた似非エリートマンは初めて面白そうな顔をしながら棒を持ってどこかに行ってしまった。


 30分後……


「あっはっはっはっは!」

 爆笑しながら試験官が帰ってきた。

「あの……何かあったんですか?」
「え? あぁ、何かあったといえばあったね。えーっと、うん。ちょっとついてきて」
「?」

 状況は全くつかめなかったがとりあえずついていった。そして、そのまま5分ほど歩くと開けた場所にでた。真ん中にはバスケットボール大の岩がある。

「なんですかあの岩は……っていうかなんですかあの真ん中の落書きは」

 岩にはふざけた顔の落書きがしてあった。ヘタクソだ。

「なるほど……言われてみれば確かに。いやなに、あれを君に砕いてもらおうと思ってね」
「……は?」

「まあ、わけがわからないだろうけど今はボクの指示に従ってくれないかな。まずは岩の前に立って。それで、自分がつっこんだらその岩が木っ端微塵に弾け飛ぶところを想像して」
「何につっこめば……というかツッコミで岩が木っ端微塵になるってことにこそつっこむべきだと思うんですけど」
「いいからいいから」

 何がいいのかさっぱりわからん……わからないけど指示にしたがって岩が盛大に吹っ飛んでいく様を想像した。

「準備できた?」
「はぁ……」
「オッケー。じゃあいくよー」

 何をだ。今度は何をやらかすつもりだ。

「おっす!」

 岩が口ききたがった。

「ぎゃああああ! 落書きが喋ったああ!」

 こわ! っていうか気持ち悪っ! ドラクエか!? 自爆する憎いアイツなのか!?

「ほらほら、早く突っ込んで」
「いや、何ですかこの不思議物体は!」
「藤林君だ」
「ほれほれ、遠慮なくどかんと来い」

 流暢にしゃべってやがる。落書きの分際で。

「ああもう、とりあえずお前はしゃべんな!」

 ツッコミ希望の謎の落書き岩のちょうど顔の部分に裏拳を叩き込む。岩だからそんなことやったらさぞかし痛いだろうとかそういう常識はふっとんでいたため思いっきりやってしまった。

 しかし、砕けたのは俺のこぶしではなくて。

「わが生涯に一片の悔い無し!」

 不気味な岩(藤林)の方だった。藤林はきりもみ回転で吹っ飛びながら空中分解していった。

「吹っ飛んでったー!」
「あっはっはっはっはっは!」

 吹っ飛ばした本人である俺の驚愕をよそに試験官は大爆笑していた。

「ちょ、これどういうことなんですか!?」
「あー、とね。人間はそれぞれ業ってものがあってね。まあ、ここでは生前よくやってたこと、て程度の話になるんだけどね。業が深いと死後「それ」が特化するのね。つまり、生前関わりが深かったものが特殊能力になると。で、君の場合は『ツッコミ』がそれにあたると。今までそれを調べてたわけ。ここまでは大丈夫?」
「えーっと……?」

 なんだかよくわからない話になってきた。つまりどういうことだ?

「わかってなさそうだね。うーん、噛み砕いて言うなら、君は生前ツッコミばっかりやってたからツッコミに特殊能力がついたってこと。頭の中で想像したツッコミの結果が現実のものになる」

 人のことをつっこむためだけに生まれたような言い方しやがって……いや、実際5分に一回くらいつっこんでた気がするけど。学校でもボケばっかりだったし、雪美とパパ成にいたっては天然だ。ツッコミがいないとバランスもとれないだろう。いや、なんのバランスだとか言う話はこの際置いておいてだ。

「えーっと……それはつまり、俺がボケたやつが木っ端微塵になるところを想像しながらつっこんだらそいつは木っ端微塵になるってことですか?」
「まあ、そういうことだね。ツッコミがまともならまともなほど、うまければうまいほど、具現度が高くなってくるみたいだね」

 なんだその物騒なツッコミは……

「果てしなくいらない特技ですね……」
「いやー、そうでもないよ? そういう能力を持ってる人って天界の中でも3割くらいだからね」
「それ、言うほど少なくないです」

 っていうか、正直レアでもいらん。

「ま、とにかくこれでテストは終わりだから。明日からは正式に学校に来てもらうことになるから。えーっと、明日の8時20分くらいに職員室に来てくれるかな。君のクラスに案内するから。ボクは日比谷。職員室で日比谷はいますか?っていえば通じるから」
「わかりました。ありがとうございました」
「はい。んじゃ、おつかれさーん」




 日比谷さんと別れて家に帰ると既に夕食ができていた。
「おかえりー」
「ただいま……」
「お疲れ様。お風呂沸いてるけどどうする?」
「……先に風呂はいるわ」
「いってらっしゃーい」

 なんかどこぞの若奥様みたいだな……、なんてことを考えながらも風呂に入って今日一日のつかれを落とした。


「で、どうだった?」
「……ん? 一年だと」
「普通だね」
「悪かったな」

 夕食を食べながら美樹が今日の成果を聞いてきた。

「……ねぇ、それでさ。もう一個の方は?」
「もう一個?」

 世間話的に話してた今までの話とは段違いに興味津々と言った様子で聞いてきた。もう一個って……あれか。

「……言いたくない」
「ってことは何かあるんだね」

 ……墓穴掘った……

「ねえ、教えてよ」
「い、いやだ」
「教えてってば」
「断固として拒否する!」
「……そんなこと言ってるとわたしの業使っちゃうよー?」
「お、お前も何かあるのか?」
「うん、わたしはこれ」

 美樹は親指と中指で輪を作ってみせた。その中指が発射待機状態になっているポーズはもしや……

「デコピンか……?」
「うん。ほら、教えてくれるの? くれないの? 言っとくけどわたし、本気を出せば鉄板くらいならくだけるからね」
「なんだその物騒なデコピン!?」

 そんなもんくらったら頭が弾け飛んでしまう。戸愚呂弟かっつうの。……戸愚呂?
 変な思考を巡らせているうちに美樹の手がゆっくりと近づいてくる。

「ほらほら、早くしないと頭割れるよー?」
「わ、わかった。わかったからその指しまってくれ」
「素直でよろしい」

 幼女に脅迫されるなんて……それ以前に、こいつデコピンが特化してるという状況に疑問を持たないのだろうか?

「で? なんだったの?」

 美樹は目をキラキラさせて身を乗り出している。一歩間違えれば夕食のシチューがこぼれそうだ。

「その……ツッコミ……」
「……つっこみ?」
「そう、漫才とかでよくやるアレだ。ほら、もういいだろ?」
「ふーん」
「ふーんて。なんだこの面白特技。俺は普通でいいっていうのに……」
「そう? ないよりはいいじゃない? 損するわけでもないし」

 確実に損してると思うけどな。

「……まぁ、意識しなかったら特に発動されることもないからそうすればいいと思うよ」
「そりゃ助かる。つっこむたびに死人が出るなんて笑い話にもならないからな」

 まぁ、ここで死人の定義をするのはすごく難しいと思うが。

「あ、そうだ。あんどっち、クラスは?」
「あぁ、3組だと」
「ふーん……」
「それがどうかしたのか?」
「わたしも一緒に行くから」
「……」

 何度目だ? こいつの爆弾発言は。いい加減驚かなくなってきたぞ。

「説明してくれ」
「うん。わたしが今見習いなのは知ってるでしょ? で、その最終試験が誰か一人の卒業までの付き添いなの。だから、原則としてわたしはあんどっちの学業に付き添う必要があるの」
「なるほどな……」

 よくよく考えてみれば美樹もまだ初めてのことが多いわけか。俺はまだ美樹がいるからなんとか迷わずにやっていけてるがこいつにとっては手探り状態なわけだし……

「よし、じゃあ半人前同士がんばるか」
「あ、わたしはあんどっちよりはまだ先輩だよ!」
「おう、わかってるよ先輩」
「む……それはそれで嫌な呼ばれ方かも」

 勿論皮肉だが。
 そんなやりとりをしてるうちに、気づけば時刻は9時半になっていた。

「あ、寝る時間だ」
「早くねえ!?」
「あんどっちに言われたくないよ。昨日9時に寝てたじゃない」

 9時は子供っぽいのに9時半は無罪か。

「基準がわからん……」
「なんか言った?」
「何も言ってません」

 小さなつぶやきに敏感に反応してガチ見してくれました。相変わらずすげえメンチだ。

「じゃあ、早く寝よう。明日はあんどっちの記念すべき学校デビュー」
「頼むから高校デビューみたいな言い方しないでくれ……」

 言ったときには寝息が聞こえてきた。どこのいじめられっこの特殊スキルだ畜生。

「明日から学校か……」


 まさか死んでまで学校に行くことになるとは思わなかったな。
 しかし……ここ2日でわかったことだが、ここはやたらと変なやつが多い。

 だから、生前よりはるかに大変そうな気がするのは、多分気のせいじゃないと思う。







戻る

SEO [PR] おまとめローン 冷え性対策 坂本龍馬 動画掲示板 レンタルサーバー SEO